#9 12歳
- 紅屋 翠
- 2023年12月1日
- 読了時間: 4分
更新日:2月15日
今日はおれの誕生日!
でも――

「流れ星と朝焼け、綺麗だったねリヒト……」
布団をめくり、足元で丸くなっている彼に声をかける。
寝る前はいないのに、朝にはいつの間にか潜り込んでいるおれの友達。
「……クラウスも来れば良かったのにさ」
今日はおれの誕生日。
大樹の森で、3人で流星群を見ようと約束した日。
4時に起きて、ユリくんと2人で流れ星と朝焼けを見て、たった今部屋に戻ってきたところ。
朝礼の準備をするには、まだ少し早い。
「寒い……眠い……」
制服のままだということなど気にもせず布団を被り直すと、リヒトはもぞもぞと腕の中に入ってきた。
ふわふわしてて、あったかい。
「んー……もうちょっとこうしてよっかぁ……」
今日から12月。
外から戻ってきたばかりで、この寒さじゃまだ動けそうにない。
白いふわふわを抱きしめながら、少しだけ目を閉じてみた。うん、少しだけね。
なんか聞き慣れたノックの音がした気がするけど、多分、気のせい……。
「レニー!レーニー!起きて!」
「んー……ユリくん……?おはよう……」
「あぁ、やっと起きた。改めてお誕生日おめでとう!大遅刻だよ」
「え゛!!」
慌てて飛び起きると、もう9時を過ぎようとしている。
朝礼も朝食もとっくに終えて、授業が始まる時間だ。
外もすっかり明るい。カーテンからは陽が差し込んでいた。
「ほらほら急いで~。誕生日にまで怒られたくないでしょう。朝礼は見逃してくれたけどね」
このままじゃ自分も授業に遅れるというのに、いつもと変わらない調子のユリくん。
先に行ってて良いよ、と言おうとしたところで、今日も“最近の違和感”を覚える。
やっぱり、というかなんというか。
クラウスがいない。
分かってはいたけど、やっぱり気になる。
だって、もう1週間くらいこんな感じなんだもん。
「ユリくん、あのさ」
「レニーも今日で11歳~……♪」
散らかった衣服を拾いながら、ユリくんが小さく鼻歌を歌っている。
クラウスのことを聞きたかったけど、なんとなく、勇気が出ない。
あいつはおれのことも避けてるし、ユリくんも……なんか、違う感じがする。
「ん?なぁに?」
「あ、ううん!そう、11歳!もうすぐユリくんに追い付くよ!」
「ふふ。私も追い抜かれないように頑張らないとね」
「…………」
今日はおれの誕生日。
でも、ユリくんとクラウスは……。
「あ、鐘鳴っちゃった」
授業開始の鐘の音。1限目は……外国語だったっけ?
ということは、姉ちゃんの授業だ。
「あああ急がなきゃ!!ユリくん行こう!!」
「わーい急げ~」
呑気なのか、クラウスに会いたくないのか、はたまた授業に出たくないだけなのか。
おれには分からないけど、やっぱり近頃のユリくんとクラウスは変だ。
でも、それも今日で終わりにする!
だって、クラウスがユリくんを嫌うなんてあり得ないから。うん。あり得ない。絶対ない。
今日はおれの誕生日。
3人で過ごせないのは嫌だ。仲直りしてくれなかったら、おれが2人を怒る。
「……ユリくん、大丈夫だからね!」
今日はおれの誕生日。
でも、ユリくんはもういない。
「おれ、12歳になったよ、ユリくん」
年齢が追い付くなんて、あり得ないのに。あり得ないことなのに。
なんで?おかしいよ。
クラウスとだって、仲直りしたんじゃなかったの?
“あの日”からもうすぐ1年。
あの日って、何? 何だっけ。
聞き慣れないノックの後、“聞き慣れた”あの子の声がする。
「あの、レナードくん……いる?」
……今日は、ボクの誕生日。
「うん、いるよ!」
大好きなユリくん。
これからもずっと、ボクが一緒にいるからね!