#4 8人の恋人?
- 紅屋 翠
- 2023年2月14日
- 読了時間: 3分
更新日:2月16日
「ちょ、ちょっとヘンゼル!!」
「どうしたの?」
「こっち来て!!早く!!」
「何……」
「見て!!大人になったヘンゼルが来た!!」
「やぁ、可愛いお嬢さん」
「!?!?」
グレーテルが固まっている。飴細工みたいに。
「ちょっと兄さん……!」
「あっ……えっと……うぅ……」
りんご飴みたいに顔が真っ赤になっている。
「ごめんヘンゼル……全然別人だぁ……ヘンゼルはあんな事言わないもん……」
「そりゃそうだよ」
「へぇ~、ルカくんに教えてもらったけど、本当にいるんだ。マジでそっくりじゃん」
「誰にでもすぐ似てると言うのはやめてください」
「え、でも本当に似てない?」
「少なくとも、当時の兄さんよりはずっと弁えているお2人だと思いますよ」
目の前のお兄さんとお姉さんは兄妹だろうか。
僕達もこんな感じになるのだろうか……。
「あ、あの、お兄さんとお姉さん。今日はどんなチョコをお探しですか?」
「あぁ、ええと……」
「9人……じゃなかった、俺は8人分必要なんだけど丁度良いのあったりする?」
「は、8人!?」
「9人目になる?」
「~~~~っ!?」
「どうしようヘンゼル……もう全然違う人だぁ……」
「まだ言ってんの?」
そうして見知らぬお兄さんは、8人も恋人がいるという疑惑を残したまま妹さんと一緒に帰っていった。
普通に考えたら恋人なわけがないのだけど、僕は別にどっちでも良いと思った。
「でもでも、恋人じゃなくて子供かもしれないよね!?」
「……あの人なら8人いてもおかしくないんじゃない。お父さんって感じでもなかったし」
「いや、待って!?最初は9人って言ってた!……か、隠し子ってこと……?」
あぁ、またグレーテルの妄想癖が始まった。
こうなったグレーテルはもう誰にも止められない。
彼女の豊か過ぎる想像力は、僕の言葉なんて一瞬でかき消してしまうから。
「なぜ否定しなかったんです」
「だって適切な表現が思い浮かばなかったし。俺達のことをわざわざ説明するのもなぁと思って」
「だからってあれはないです」
「でも面白かったじゃん。可愛かったね、グレーテルちゃん」
「はぁ……」
「大丈夫だよ、昔のベルだって――」
「そんな事を言ってるんじゃありません」
「もう、そんな怒らないでよ。さて……これ、今日中に全員に配れるかな」
「……それは大丈夫だと思いますよ。まずは兄さんの家に帰りましょう」
「ここから一番近いのは双子の家だけど」
「……とにかく帰りますよ」
「あー……。……はいはい」